目次


開催案内

日時

2018年4月27日(金曜日)午後3時から

 

場所

理学部6号館401講義室
アクセス 建物配置図(北部構内)【4】の建物

 

プログラム

15:00〜 ティータイム

15:15~

 

「ある場の量子論屋の見た数学」
立川 裕二氏(東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構・教授)

 

少しでも畑の違う人からすると、理論物理も数学も似たようなものに見えるのではないでしょうか。しかし、実際にその中で暮らしてみると、随分違いがあるものです。

 

場の量子論は、ちょうどこの理論物理と数学の境目に位置している分野で、私はこの境目のすこし物理側で研究をしているため、数学側の様子もしばしば覗くことになります。

 

今回の講演では、その過程で私の巡り合ったいろいろな驚きをお話したいと思います。それを通じて、場の量子論とは何か、場の量子論の研究がどんなものであるかが、少しでも伝わればよいと思います。

(講演終了後、質疑応答)

16:45~

平成30年度MACS学生説明会

スタディグループ2018 の代表教員による企画説明

 
  • データ同化の数理と応用:理論モデルとデータをつなぐデータサイエンス
    坂上 貴之(数学・数理解析)
  • VRで見る・3Dで触る先端科学
    稲生 啓行(数学・数理解析)
  • 本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る
    高瀬 悠太(生物科学)
  • 種々の実例から考えるパターン理論」
    石塚 裕大(数学・数理解析)
  • 自然科学における統計サンプリングとモデリング:数理から実践まで
    林 重彦(化学)
  • 自然科学へのゲーム理論的アプローチ
    太田 洋輝(物理学・宇宙物理学)
  • 脳科学に関わる数理
    加藤 毅(数学・数理解析)
  • 数理で探求する生命現象の新たな描像
    市川 正敏(物理学・宇宙物理学)
  • 疾患における集団的細胞挙動の数理モデルの開拓
    Karel Svadlenka (数学・数理解析)
  • コンピュータでとことん遊ぶ
    藤 定義(物理学・宇宙物理学)
  • 理学におけるデータ科学実践:機械学習で自然科学を読み解けるか
    中野 直人(理学研究科 連携講師)

17:45~

懇親会 *学生無料・教職員1,000円程度
 

備考

*理学部・理学研究科の学生・教職員が対象ですが、京都大学の方ならどなたでも聴講できます。申し込み不要。


講演動画

『ある場の量子論屋の見た数学』立川 裕二 氏

 


開催報告


立川裕二氏による講演の様子
 
100名を越える参加がありました。
 
國府寛司MACS運営委員長による事業説明

第4回のMACSコロキウムでは、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授の立川裕二氏にご講演いただきました。タイトルは「ある場の量子論屋の見た数学」です。立川さん自身の専門分野である場の量子論と、それを研究する上での数学との関わり方について、平易な言葉でご解説いただきました。

 

まず第一節「場の量子論の数学」は、場の量子論という分野についての簡単な解説の後、その成功例や他の物理の分野との関わりをいくつか挙げることから始まりました。初めに量子電磁力学から、電子の異常磁気モーメントの理論計算と実験結果の符合を、次に量子色力学(格子量子色力学)の精度の改善を取り上げました。これらは素粒子物理の例でしたが、物性物理からの例として、相転移の臨界点の記述に共形場理論が用いられることや、トポロジカル物性において場の量子論が多用されることにも言及します。

 

これらの例から、場の量子論が「よく研究されている」「数値を精度よく計算できる」「実験結果とよく符合する」という特徴をもつと結論づけます。その一方で、量子色力学の数学的定式化が極めて有名な懸賞問題になっている(Yang—Mills方程式と質量ギャップ問題)ことなどから、場の量子論は数学的定式化が不完全であるという認識を示しました。実際にこれまで数学者、理論物理学者たちが場の量子論の定式化をどう試みてきたかを紹介し、第一節の「場の量子論の数学」の締めくくりとなりました。

 

第二節では「場の量子論における数学」と題して、研究過程で実際に必要になった数学についてお話いただきました。とりわけ最近必要になったというコボルディズム群については、その動機となる SPT 相 (symmetry protected topological phase) の分類との関連についても骨子をお話くださいました。「これらの数学は、学生当時には必要になるとは思いもしなかった」という回想を踏まえ、学生からよく訊かれる質問だという「場の量子論を研究していくにあたってどの数学を勉強すればいいか」に対して、「その場その場で必要な数学を勉強していくという方針がいいだろう」と答えています。

 

最後の第三節では「場の量子論からの数学」と題し、場の量子論からどのような数学が生まれるか、という観点からお話いただきました。初めに、数学と弦理論の相互作用の例として、モンスター群と J 関数という純粋に数学的動機で発見された構造どうしの繋がり(ムーンシャイン予想)が弦理論から現れる構造を通じて証明されたことを挙げます。これに類似する立川さん自身の経験として、別の設定で弦理論に現れた関数にムーンシャイン予想の類似を考える江口=大栗=立川予想、およびその部分的解決を紹介しています。別の例では、ある6次元の場の理論から現れる楕円ガンマ関数の関数等式が同時期に数学者により証明されていたことをご紹介いただきました。これを踏まえ、第一節で述べられた場の量子論の数学的定式化がうまくいけば、より多くの非自明な数学的帰結が得られるのではないか、という展望を開き、聴衆への希望として述べる形で講演が終わりました。

 

実際の講演では、より多くのトピックを非常にユーモラスな語り口でご紹介いただいています。続く質疑応答では専門的な質問にも多く答えていただいたほか、懇親会でも学生と活発に議論を続けてくださいました。

 

立川さんの講演に続いて、平成30年度 MACS 学生説明会が開かれました。会の初めに國府寛司 MACS 運営委員長から MACS 事業についての解説があり、続いてスタディーグループへの参加登録方法と、今年度に提案のあった各スタディーグループからの内容や予定についての説明がありました。(文責 石塚裕大)